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地域包括ケア 府民講座レポート

認知症の初期集中支援~地域と専門チームの取り組み~

10月6日(日)京都大学宇治キャンパス宇治おうばくプラザ きはだホール
写真:敦賀温泉病院 理事長 玉井顕氏
講師:敦賀温泉病院 理事長
玉井顕(たまい・あきら)氏
認知症で重要なのは早く気付き、よりよく知ること。認知症の啓発や地域でのコミュニティづくり、行政との連携など、様々な取り組みの実態についてお話しいただきました。森俊夫・府立洛南病院副院長との対談の様子も掲載しています。

初期治療には啓発が大切

写真:府民講座の様子

私は1990年春に敦賀温泉病院を開設しました。当初、認知症で来られた患者さんには重症の方が多かったわけです。もっと早い段階で来ていただければと思いました。これは認知症の啓発しかないと痛感したわけです。重症化する前に医療機関に来て頂き、治療を始めることが必要なのです。そうすれば、適切な治療によって症状が軽くなったり、入院しなくてもよくなるのです。まず病院内の医者を始め看護師さんや臨床心理士さんらの認知症に対する知識を深めてもらう一方、サポーター養成講座や病院外での講演などの啓発を行いました。また、認知症のご家族の方々にも認知症に対する理解を深めてもらうようにしました。認知症に対する理解が深まれば、介護する家族の不安も少なくなります。

行動観察など様々な取り組み

写真:府民講座の様子

そうした一方で、行動観察評価シートを活用しました。「自分で食べれますか」「道に迷うことがありますか」など日常生活の動作や様子を約50項目でチェックし、軽度か中等度か重度か、大体のことが分かるようにしたのです。さらに熱心な取り組みを町を挙げてしてくれている福井県の若狭町では個別訪問も実施しています。

そして、訪問して日常生活を把握し改善に向けてアドバイスなどをする一方、地域での関係性を高めるコミュニティづくりにも取り掛かり、敦賀温泉病院に認知症のお出かけ専門隊を作りました。

若狭町ではこうした取り組みの結果、軽い症状の方も受診に来られるようになり、入院を必要とするような重症者はなくなり、通院治療で十分な人が増えて行ったのです。

認知症に早く気付き、よりよく知る

写真:府民講座の様子

認知症は、高血圧症や肺炎など症状が分かりやすい病気ではありません。だから認知症を知ることから始まって、それを深く理解し対応していかねばなりません。家族も疲れますから、そのケアも必要となるでしょう。重症になると、家族関係も大変になります。極端な話では認知症の人に対する虐待にまで発展するのです。介護される家族のつらい心情をしっかりと受け止めることも大切です。

若狭町では、アンケートで「認知症を詳しく知っている」と回答した人が26.8%もあり、全国平均の19.4%よりかなり高いのです。「認知症に対する知識を十分入手している」と回答した人も若狭町では46.9%もあったのですが、全国では21.4%にとどまっています。気づきをはやくということで、私は患者さんと一緒に生活範囲を歩いたり、車で走ったりしています。それによって、認知症の方の実態をより知ることが出来るのです。認知症は人と人との絆を忘れないことを教えてくれます。


対談
玉井顕・敦賀温泉病院理事長と森俊夫・府立洛南病院副院長

病院開設につながった治療への疑問

写真:対談の様子
数年前に玉井先生のお話を聞き、衝撃を受けました。認知症の患者さん本人と一緒に付近を歩かれるなど、病院の診察だけでは見えない部分を知ろうとしておられたからです。もうひとつ衝撃を受けたのは1990年に一気に病院を開設された手腕でした。
玉井
当時の医療や診察にずっと違和感を持っていたのです。能登半島の山奥の認知症のご家庭を訪問した際、ご家族はもう心身とも疲れ切っておられ、病院に行ったが面倒をみられないと言われたとお聞きしました。これは何とかしなければと感じたのです。そして地元に帰って無謀にも病院を開設しました。
最初はどんな状況でしたか。
玉井
病院に来られるのは認知症でも症状の重い人ばかりです。まず自分の病院のスタッフの啓発に乗り出す一方、関心を示していただいた若狭町でさまざまな活動を展開したわけです。
若狭町のデータを見て驚きました。初診の75.6%が軽度で、重度は8%です。驚異的な数字ですね。手を尽くして行けば、そこまで行けるという思いを新たにしました。

トップダウンとボトムアップが大きな力に

写真:玉井顕・敦賀温泉病院 理事長
玉井
若狭町では町長さんの理解を得て認知症への取り組みを町をあげてやろうということになりました。教育現場にも認知症の話を子供さんの前で出来るようになったりしました。トップダウンと地域からのボトムアップが合わされば、大きな力が発揮され、いろんなことが進んでいくのです。
行政のトップが決断され、住民のボトムアップがあるわけですね。そのなかで看護師さんの存在も非常に大きいと思うのですが。
玉井
最初、看護師さんは認知症に関してほとんど知識がなかったわけですが、外来の現場をみていくうちにどんどん理解が深まり、自信を持ち、いろいろなことが説明できるようになったのです。
認知症に対する玉井先生の知識と技術が共有されてきたということになるのでしょうか。医療とケアは一緒であるべきだということを痛感します。それは玉井先生の実践から生まれたものだと思います。さきほどの話ですが、そういう知識や現場経験の豊富な看護師さんが何人もおられれば、この宇治も若狭町レベルに持っていけるのではという気がしてきました。
玉井
どこでも若狭町のようになれます。地域との連携などが確立されたなら、やっていけるものです。そしてある所が大いに改善されると、それは「感染」していきます。どっかでうまく行けば、広がっていくのです。

病院のあり方を変えていきたい

写真:森俊夫・府立洛南病院副院長
玉井先生のお話を聞くうちに形だけは見えてきた気がします。宇治市でも拠点を設け徐々に広げていきたいと思います。しっかりした看護師さんを育成していけば可能でしょう。確か玉井先生の病院では認知症の重度の方が減ってベッドが満床にならないと聞いています。
玉井
経営面では大変ですが、入院されるとやはり生活能力が落ちて行きます。だから病院の在り方を変えていきたいと。生活指導できる病院に変えていく。重度の方だけでなく、軽度の方も病院を生活の場にできないかと考えているんです。
玉井先生のお話は新しい病院の在り方としてすごいと思います。実践の中から生まれて来たお考えでしょう。京都府も計画を持っていますが、それに示唆を与えるものと思います。認知症に対して玉井先生は一貫しておられます。
玉井
まだ私も認知症を知ったというレベルではありません。患者さんとともに歩むことが必要です。まだまだ認知症は分かってないことも多いですから。認知症に対する取り組みなどが活発化するよう、宇治市でもいろいろな活動が進むことを願っています。
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